青森地方裁判所 昭和25年(行)35号 判決 1960年3月17日
原告 山田秀治
被告 青森県知事
主文
青森県農地委員会が別紙目録記載の土地の別紙図面表示の部分に対する買収計画につき原告のなした訴願に対し、昭和二十五年八月九日付をもつてした原告の訴願を棄却する旨の裁決を取消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実
原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、請求の原因として、
一、別紙目録記載の土地は原告の所有であるが、浜館村農地委員会は昭和二十五年五月三十日右土地のうち別紙図面表示の部分(以下本件土地という)につき自作農創設特別措置法第三十八条に基き未墾地買収計画を定めた。よつて原告は同年六月十九日右委員会に対して異議の申立をしたが同年七月六日棄却ざれたので同月十二日更に青森県農地委員会に訴願したところ同委員会は同年八月九日付で訴願相立たない旨の裁決をし、右裁決書は同月十三日原告に送達された。
二、しかしながら前記買収計画には次のようなかしがあり従つてこれを認容した右裁決は違法であるからその取消を求めるものである。即ち
(一) 本件土地の面積は買収計画上字平野百三十番の一の一部山林九町四反五畝二十歩、同字百四番原野四畝十歩と表示されているが、その実測は十一町余に及ぶところ市町村農地委員会において樹立できる未墾地買収計画は自作農創設特別措置法第三十八条、同法施行規則第二十四条により十町歩以下の場合に限られるから前記買収計画は浜舘村農地委員会が権限なくして樹立した違法のものである。
(二) 本件土地はもともと山林として利用されて来たもので、その南西側に隣接の水田地帯に対する水源涵養林として、且又この地方特有の東風に対する防風林として重大な役目を果して来たものであるが若し本件土地を買収して開墾することになれば右水田地帯が旱魃及び冷害の憂き目をみることは必至である。更に右のような点を度外視しても本件土地はこれを山林として造成することにより最大にして且つ国策にも添つた利用価値を発揮できるもので、されば被告においても昭和二十六年十月これを造林臨時措置法第十条に基く造林地と指定し、以来原告において着実に植林を進め幼樹林として造成するに至つたものである。これを要するに前記買収計画は買収適地の判定を過つた違法のものというべきであると述べた。
(立証省略)
被告指定代理人等は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として
原告主張の一、の事実は認める。同二、の(一)の事実中買収計画上本件土地の面積を原告が主張する如く表示したことは認めるがその余の事実は争う。同二、の(二)の事実中本件土地の一部につき主張のような造林地の指定があつたことは認めるがその余の事実は争う。右造林地の指定は本件買収計画後になされたものであるから買収計画の適否になんら関係がなく、しかもその指定の範囲は字平野百三十番の一号のうち単に十三町歩とだけ示されているのであるからそれが本件土地のどの部分に当るのかさえ特定することができない。と述べた
(立証省略)
理由
請求原因一、の事実は当事者間に争がない。そこで原告主張の違法事由のうち本件買収計画は浜舘村農地委員会がその権限を超えて樹立したものであるとの点につき考察しよう。自作農創設特別措置法第三十一条によれば未墾地買収計画は都道府県農地委員会が定めるのを原則とし、ただ同法第三十八条、同法施行規則第二十四条により都道府県においては十町歩以下の小規模の買収計画に限り市町村農地委員会においてこれを樹立することを認められるにすぎない。しかるに鑑定人当麻武男の鑑定の結果によると本件買収計画の対象とされた本件土地の面積は実測により字平野百三十一番の一号山林のうち十一町四反二畝二十八歩及び同字百四番原野一反十二歩計十一町五反三畝十一歩に及ぶことが明かである。前記規定に謂う十町歩の算定は自作農創設特別措置法第十条のような特別の定めがないから公簿面積に拘らず実測により決すべきものである。仮にこの点を公簿面積によるのを本則と解するのが正当であるとしても全筆買収である字平野百四番(公簿面積四畝十歩)の場合はともあれ、一部買収であつて別紙図面に見るような形状の同字百三十番一号の場合は公簿面積から右買収計画にかかる一部の面積を割出すことは不可能であるから少くもこの部分は実測面積によらざるを得ないものといわなければならない。
右いずれにせよ本件買収計画は浜舘村農地委員会が前記法条により特に与えられた権限を逸脱して樹立した違法の処分というべくかような違法の買収計画に対する原告の訴願を棄却した本件裁決は既にこの点で違法であつて取消を免れず、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 飯沢源助 福田健次 中園勝人)
(別紙省略)